5月のお手入れ

 

1.        潅水:開花に備えたっぷり水やり

2.        副蕾摘み:大輪種は副蕾を摘むと大きく咲く

3.        病害虫防除:忍者のようなバラゾウムシ

4.        施肥:地植えは原則的には不要・鉢は蕾色づくまで

5.        花の保護その他:雨に弱い大輪種

 

1.潅水

 いよいよ待ち望んだ5月。手塩にかけたバラの蕾が美しくふくらみ、花弁をやわらかく包んでいたガクの隙間からそっと色をのぞかせ、やがて蕾の膨張に耐えかねるようにガクが下りると、急速に花びらが伸びて一気に開花し、色彩の乱舞を見せてくれます。ところで、期待のバラを良くするも悪くするも、この時期の水やりにかかっている面がとても大きいのです。地中に水がたっぷりあることで、水に溶けた肥料分が枝葉に十分行き渡り、緑濃く立派に育った葉が陽光を受けて、光合成を行います。光合成とはご存知のように、葉裏の気孔から空気中の二酸化炭素を吸収し、葉が含有している水を水素と酸素に分解して、酸素を空気中に放出し、炭素と水素を結合してグルコース(C6H12O6)を作ることです。

 

このグルコースを元にして地中から吸収したNO3NH4 などの無機チッソ化合物を取り込み、各種アミノ酸やタンパク質などの有機チッソ化合物を合成しています。これらを元にバラ(植物)は大きく育っていきます。ちょっと難しそうなことを述べましたが、バラが丈夫に育つには、太陽の光と水と肥料、特にチッソが十分必要だということを知って欲しかったのです。

 

バラにとって花を咲かせることは大変な作業です。肥料分が溶けた栄養ドリンクをたっぷり与え、病気や害虫で葉を失うことに注意し、よく日に当てることで手助けしてやりましょう。

 ただし、欲しがるからといってやたらに潅水すると、酸素を吸収しながら分裂生長する白根の先端が窒息状態になるので、地表面がいつも濡れているのではなく、やや乾いたなと思ったらたっぷり与えるのが水やりのコツです。細かく少量ずつ潅水すると、地表面の浅い部分だけが湿っていて、2030cmぐらい下は水不足になっていることが多いものです。水に溶けた栄養分を吸収する白根が分布している2030cmの土と土の隙間に十分水を保持していることが望ましいのです。この水はバラが吸収するだけでなく、地表面から蒸発したり、根が届かない地下に流出したりして不足してきます。バラをよく観察していると、水不足が分かるようになります。バラが喉が渇いてきたと訴えますから、すかさずたっぷり与え、間隔を長くして繰り返すのが上手に育てるコツなのです。それでも、若い枝先がしおれるほど水を切るとかなり強い水ストレスを受け、立ち直るのに時間を要するので、そこまで水を切らないでください。

 

水やりの頻度は、その土地の環境で全く違うものです。3日に1回とか1週間おきだとか、色々な表現がありますが、地下水位が高くていつもじめじめしている場所と、地下水位が低い乾燥地や砂地の庭は、同列には扱えません。極端なことを言えば、恵みの雨だけで年間無潅水で済む土地がある反面、真夏の晴天続きならほとんど毎日水やりしなければ、枯れてしまう過酷な条件の庭もあります。自分の庭の条件に応じて水やりをする。そのコツを会得するのが、バラを上手に育てる重要なポイントの一つです。

 

ところで、開花前1週間ほどになったら、一工夫してみましょう。バラの花弁は水が多いと大きく伸びますが、バラの魅力の色彩は水が少ない方が色が濃くなります。青ざめた水ぶくれの花よりも、きれいな色彩で花弁に張りがある花の方が数段立派です。水がたっぷりあると、肥料も沢山吸収され花弁が育ちながら咲くので、すっきり咲きません。そこで花が咲く1週間~10日ほど前に、水を控えて肥料を少なくすると色よく咲くのです。コンテストに出品される花はこのように一工夫施されています。コンテストのことは別にしても、きれいな花が咲くのは嬉しいことです。

 

2.副蕾摘み

 HT種は、一般に四季咲き大輪種と言われています。文字通り1本の花枝(ステム)に1花だけ咲かせると、大輪種らしく大きな花が誇らしげに咲きます。主蕾と言われる中心の大きな蕾のほかに、ほとんどの品種が主蕾の両脇に小さな蕾(副蕾)が二つ付いています。更にその下の葉のつけ根や、もう一段下から蕾が出るものもあります。これらの蕾を全部咲かせると、フロリバンダ(房咲き種)と変わらないほど沢山花をつけるものさえあります。普通は主蕾だけ残し、副蕾は指で折れるくらい早い時期に摘蕾して、主蕾だけ咲かせることが多いのですが、これは好みの問題ですから、すべて咲かせて楽しむもよし、11花の豪華さを愛でるもよし、というところでしょう。ドライフラワーに使いたいので、すべて咲かせて利用する人もいます。

 

つるバラも、HT種の枝変わりのものは、副蕾を除去すればやはり大きくて立派に見えます。

 

フロリバンダも最近の傾向で、花数が少ないものもありますが、沢山咲くのが本来の姿なので、自然にまかせて咲かせますが、ここで一工夫、中心の主蕾を早目に摘み取ると、ほかの花が揃ってバランスよく咲きます。惜しい気がしますが、思い切って早目に摘み取ってみてください。コンテストに出品されるバラは、ほとんどこのような処理をしています。

 

3.病害虫防除

 バラの樹が健康に育っていると、クロホシ病やウドンコ病などに対する防御機構がよく働いて、あまりかからなくなります。このような良好な状態の場合は、やたらに薬剤を散布する必要はありません。病気予防の殺菌剤は、病気の兆候が出たら素早く対処するのも一つの方法です。しかしこれは毎年の手入れがよく、病気が少ない場合です。

 

病菌のほとんどは自分の庭で飼っているようなものだと思ってください。毎年早々とクロホシ病やウドンコ病が現れる庭は、病気の兆候が出る前から薬剤散布に努め、病気の発生をくい止めることになります。病気にかかっても、早期に対処すれば軽くすみますが、ひどくなってからの治療は数倍も労力を要します。

 

バラを傷める害虫の場合は、健全なものを狙ってくることもあるので、常に注意が必要です。4月から5月にかけて現れる害虫の中で、小さい割に被害が大きい‘クロケシツブチョッキリ’をとりあげてみます。新芽の先端や、若い蕾をつけた蕾の下の茎に、針で突いたような小さな黒い斑点が現れ、やがてそれより上の部分が枯れてしまいます。始めの頃は病気なのか虫なのか分からず、あれこれと悩むものですが、正体はバラゾウムシとも呼ばれる体長23mmの口ばしの長い黒褐色の虫です。秋にも発生しますが、春ほど被害はありません。被害はこの小さな虫の産卵行動です。蕾や新芽の先端部に1個ずつ産卵し、バラの樹液が流れていると卵が死んでしまうので、茎や葉にも針を刺し、上部に樹液が行かないようにします。枯れた蕾を割ってみると、0.8mmほどの卵が1個入っています。生みつけられた卵からかえった幼虫は、枯れて乾いて固くなった茎や蕾を食べて育ち、やがて蕾や茎と共に地上に落ち、老熟幼虫は地中に入って蛹になります。幼虫は始め半透明な小さなウジムシですが、やがて足のない太く短いウジムシになります。成虫になると、栽培バラのほかノイバラにも寄生し、またイチゴにも被害を及ぼします。夏にはサルスベリにも加害します。春1回の発生と思われますが、春の成虫から生まれた幼虫は、年内にもう12回世代を繰り返すのか、はっきり分かっていません。

 

 地上に落ちた枯れた蕾や新芽は、見つけるのが困難ですから、対策としては、枯れた蕾や茎の部分を見つけ次第切り取り、処理します。

 

固い甲羅を着けた虫で、しかも飛んでくるので薬剤が効きそうもないように見えますが、見かけによらず薬剤に弱いので、4月初旬~5月初旬にかけて飛来する時期にスミチオンやマラソン、オルトランやアドマイヤーなどの殺虫剤をこまめに週12回程度散布すれば、かなり効果があります。次々に飛んでくるので決め手はありませんが、朝早い時間に活動していますから、その時間帯に虫を見つけて捕殺するのも有効です。その際、捕まえようとすると意外に素早く忍者のようにポロっと下に落ちて、姿をくらますので、手のひらで指をぴったりつけて開いたり器を用意して落下地点に持って行き、しっかり受け取れるようにしてください。

 

バラゾウムシのほかに、やはり蕾に卵を生みつける、バラクキバチも被害を与えますが、2030年前と比べると非常に少なくなってきました。ただ、地域的にはまだかなり被害を及ぼしているところもあるようです。

 

〈薬剤調合例:水1リットル当たり〉

A オルトラン(水和剤)    1g   1000倍(殺虫)

ダコニール(フロワブル)   1g    1000倍(ウドンコ病・クロホシ病)

展着剤           0.2g     5000

 

B アドマイヤ(フロワブル)   0.5g   2000倍(殺虫)

  ダコニール(  〃      1g   1000倍(ウドンコ病・クロホシ病)

  展着剤           0.2g   5000

 

※ウドンコ病が発生したら

 

C オルトラン(水和剤)    1g  1000倍(殺虫)

  ルビゲン ( 〃 )   0.33g  3000倍(ウドンコ病治療)

  又はトリフミン(乳剤)  0.5g    2000倍(   〃   

  展着剤          0.2g   5000

 

注意:トリフミン(乳剤)使用のときは、展着剤不要

 

D  オルトラン(水和剤)    1g  1000倍(殺虫)

   サプロール(乳剤)      1g     1000倍(クロホシ病治療)

   又はラリー( )     0.33g 3000倍(    〃  

   又はマネージ(乳剤)     1g   500 (   〃  

 

※ウドンコ病とクロホシ病が同時に発生した時は、Cにサプロール1g又はラリー0.33gかマネージ1gを追加、又はDにルビゲン0.33g、又はトリフミン0.5gを追加します。

 

※ハダニを見つけたら、コロマイト・ダニカット・オサダン・ダニトロンなどを追加します。【倍率は説明書を見てください】

 

※上記の薬剤は、オサダン・ダニトロンを除いて、殺卵・殺幼虫・殺成虫すべてに効きます。なるべく同一薬剤は、続けて使用しないでください。

 

尚、薬品調合例の展着剤は5000倍のものを書いていますが、1000倍で使用するニーズやアプローチBⅠなどは、倍率が低いので使いやすいと思いますから、これらを使っても結構です。この場合、水1ℓ当たり展着剤1gとなります。倍率の違いは展着成分が多いか少ないかの違いです。

 

4.施肥

 肥料について、これまであまり触れられていなかったことですが、実は3大要素のチッソ、リンサン、カリの他にマグネシウムは葉で栄養素を作るための葉緑素の大部分を占める、とても重要な肥料です。地植えのバラには元肥えとして苦土石灰を施すので、マグネシウム(苦土はマグネシウムのことです)も入るのですが、鉢植えの場合は植え土に肥料を入れないので、玉肥えだけではマグネシウムが入りません。植え土に混入された腐葉土や牛糞などからわずかに吸収しているのでしょうが、不足していることは明らかです。大きな肥料店や農協などに行けば、肥料用のマグネシウムが求められるので、追肥の形で少量ずつ鉢土の表面に置いてください。葉色が濃くなり葉も厚くなるようです。

 

 

元肥えをたっぷり入れてあれば、標準的な土地はもちろん、黒土などの肥保ちの悪い庭でも、今月は追肥は行いません。ただし、砂地で肥料分が抜けやすい庭だったら、月初めに即効性の高度化成肥料などを1株当たり2030グラムほど追肥するとよいでしょう。元肥を入れない追肥方式の場合は、開花時に肥料成分があまり残らないよう、月初めだけ追肥します。発酵済み肥料なら1株当たり100グラム、高度化成肥料なら肥料分が多いので、20~30グラムほどを根周りに撒き、たっぷり水やりしてください。

 

鉢植えのバラは、水やりが多く肥料分も抜けやすいので、肥料切れを起こさないよう、月初めにいつものように有機質の発酵済み肥料(玉肥え)を置肥します。5号鉢なら7グラム、8号鉢なら2025グラム、10号鉢だったら4050グラムほどになります。液肥なら、NPK151515だったら、1000倍液(150ppm)。NPK555だったら300倍液(165ppm)ほどに薄めて、水やり替わりに与えます。リン酸やカリウムが多少多くても濃度障害はチッソが起こりやすいので、チッソの量に合わせて薄めてください。

 

鉢植えのバラの液肥の濃度は、100ppm200ppmが最適のようです。鉢植えは毎日のように潅水するので、肥料分も抜けやすく、地植えのように早目に肥料を打ち切ると、花に力がなくなります。蕾が色づくまで液肥を続けるのが、美しく咲かせるコツです。開花するまで少しは肥料分があってもよいのです。

 

地植えでも鉢植えでも、開花間際に特殊な肥料を与える人がいますが、肥料成分を吸収する白根は、水を比較的よく通過させますが、水以外のものはあまり通過させないので、半透膜に似ています。白根の細胞膜は水のように小さい分子は通す網目状ですが、それ以外の、例えばチッソやリン酸、カリウムやカルシウムなどは、それぞれに応じたチャネルがあり、バラが必要な時だけ開いて吸収します。不要な時は閉じたままですから、開花間際のご馳走も無駄になるわけです。いつも白根の周りに水に溶けた肥料成分があり、バラが欲しがる時に供給できる状態になっていることが大切なのです。

 

5.花の保護その他

 秋の花は文字通り、一所懸命手入れをして咲かせた花という感じが強いのですが、春は、自然の息吹き大地の力で咲き、人間を入り込ませないものがあります。一気に花開き、賑やかに咲き乱れ、あっという間に散っていく。剪定の遅速や肥料の多寡など、人為的な小細工など受けつけぬかのようです。実際、全く放任栽培の庭でも、春だけは立派に咲き誇っているのを見ると、バラの強さ、植物の生命力の逞しさを改めて感じます。

 

こんなに丈夫なバラですが、園芸品種として交配を重ねた大輪種は、雨に弱いのが欠点で、これだけは人間の手助けを求めているように思われ、じっとしていられないのは私達バラマニアといわれる人種だけではないはずです。小輪のつるバラなどは、雨に打たれてもそれなりに風情があり、雨上がりの陽差しにきらきら光る様はすがすがしいものですが、大輪のバラが花弁が傷み首うなだれている姿は、哀れを催します。次に雨に打たれて花が傷むのを防ぐ方法を列挙してみます。

    花を軽くティッシュペーパーで覆い、適当な大きさのビニールやポリの袋を直接花に被せる。この場合、袋1枚では内部に結露しやすいので、2枚使用することが大切で、これにより内側の水分は相当減少し、長時間の雨でなければ十分保護できます。雨が上がったらすぐ袋を外さないと、袋内部の温度が急上昇し、花が蒸れて傷むので注意してください。

    雨傘を差しかける。透明なビニール傘を差してやる方法は、多くの人が利用しています。部分的にはフレームの場合と同じことですが、空気の流通もよく取り付け取り外しが簡単なので、丈夫な支柱にしっかり結束するようにしてください。

    手製の帽子を被せる。針金で帽子状のものを作り、ビニール又はポリエチレンのシートを張ります。ほとんど風のない所なら、これを沢山作っておき、開花中の花に被せると便利です。

 

  新苗の植えつけは4月が最適ですが、展覧会の会場などで求めることも多いのが実状です。最近の新苗はほとんどポットに入っていますから、もちろん5月でも大丈夫です。根傷みもありません。

  植え方については、「4月の手入れの図」をご参照ください。

 

           文責・成田光雄