月々のお手入れ

7月のお手入れのポイント

  1. 施肥・潅水:夏を元気に過ごすための肥料

  2. 病気の予防と害虫駆除:クロホシ病とハダニに注意

  3. 鉢替え:鉢底から白根が出たら鉢替えサイン

  4. 2番花を楽しむ:大輪種だけはシュートに花を咲かせない

     

    1.施肥・潅水

     開花後の疲れを癒し、樹勢の建て直しをしていたバラは、梅雨の多雨と日照不足から一遍に酷暑のシーズンを迎えます。バラにとってはつらい日々ですが、この夏を如何に生長させるかが、秋花の出来、不出来のポイントなので、梅雨明け後に積極的に肥培を試みましょう。梅雨の間に肥料を施すと、雨で流亡する肥料分も多いので、「6月の手入れ」では・・・

  1. 冬の元肥量の1/22回に分けて、有機質肥料を200300gほど6月初旬と7月初旬に与え、軽く土と混ぜる。

  2. 6月に2回高度化成肥料を1株当たり20gほど与え、梅雨明け直後に冬の元肥の1/2、有機質肥料を400500gほど、軽く土と混ぜ合わせます。

    どちらの方法も花の良し悪しや育ち方に差はないので、ご自分に合った方法で行ってください。と述べました。(冬の元肥の量と種類については‟12月の手入れをご参照ください。

     私は②の方法で行っています。ただし、梅雨明けが遅い時は7月下旬になることもあるので、7月初めに高度化肥料を1株当たり20gほど撒き、肥料切れを起こさないようにして、梅雨明け直後か梅雨の晴れ間に有機質肥料を400500gほど株の周りに撒き、土と軽く混ぜ合わせます。肥料成分を吸収する白根は、地表面近くまで伸びているので、深く掘ると根を傷めます。ごく浅く土とかき混ぜるのがコツです。

     鉢植えのバラは、いつもの通り有機質の発酵済み肥料(玉肥え)なら月12回の置肥、化成肥料なら月2回ほどを続けます。置肥の量については、6月の手入れに書いてあるのでご参照ください。

     今月は暑さのため土の乾燥が激しいので、バラの木は水を欲しがります。週何回と言わず、乾いていたら十分与え、常に枝葉が瑞々しい状態になるよう努めましょう。年間を通じて潅水回数が最も多いのが、78月で、砂地の庭では連日潅水になることもあり、正に‘バラは水で育つ’を実感する季節です。梅雨時に排水の心配をするような庭でも、潅水による根腐れの心配もないので、表土が乾いたらたっぷり潅水してください。

     

    2.病気の予防と害虫駆除

     ウドンコ病がはびこる6月を、うまく乗り切ったでしょうか。実際にはウドンコ病を出さないということは不可能に近いことです。かなり乾燥した土地で,チッソ分の少ない栽培なら比較的楽でしょうが、肥培された水持ちの良い土地では、ひどい時は連日散薬しても、全く効果がないのではないかと思われるぐらい、止まらないものです。しかし、放置するとバラの木はすっかり衰弱し、秋花も来春の花も期待薄となるので、無駄枝を払い通風をはかり、なんとか6月を過ごすと、夏の訪れとともにウドンコ病の心配は薄らぎます。

     替って、クロホシ病の季節になります。予防薬のダコニールは、暖地では高温期に薬害が出やすいので、79月はフルピカ(フロアブル)など薬害が出にくい薬剤に切り替えてください。

     春先からクロホシ病が出ていたり、6月の手入れが不十分だと、はびこりやすくなります。

     一般に黒点病と言われていますが、正式にはクロホシ病(黒星病)です。この病気にかかると,葉に黒いスポットができ、次々と伝染し、やがて落葉します。バラではごくありふれた病気ですが、怖い病気で、放っておくと枝や幹まで冒され枯れることもあります。この病原菌は病斑表面の柄子殻で越年し、伝染源となります。気温が20℃前後の多雨時に菌が飛散し、水滴のたまりやすい葉の表面などに付着すると67時間で葉の内部に侵入し、36日で葉の内部を冒し、黒い点を現わして発病します。この黒いスポットは病原菌のかたまりで、やがてはじけて飛散し,次々に感染します。

     この病原菌は、葉の上に水分がなければ感染しないので、夏の晴天続きには殆ど感染しませんから、雨が降りそうなときに薬剤散布をするのがベターです。雨が降ると薬剤が流れ落ちて無駄になると思わないでください。散布後2時間ほどで薬剤が乾燥すれば、雨が降っても80%は有効です。

     クロホシ病の治療の薬剤には、サプロール乳剤やマネージ乳剤、ラリー乳剤などがあります。治療薬と言っても葉の表面にとどまっているうちは効きますが、内部に侵入した病菌をたたくことは難しいので、クロホシ病の斑点を見つけたら、ほかの葉は健全そうに見えても、やがて病斑が現われると推察して、葉柄ごと取り除き、しかも病斑が現われた葉の上下の葉も、冒されていることが多いので、やはり枝のつけ根から病葉と同じように葉柄ごと取り去ります。

     ミニバラの鉢植えが沢山あると、地面に近いせいか病菌が降雨のはね上がりで、真先にクロホシ病にかかります。ミニバラは丈夫なので、ほとんど葉が無くなるほど切り詰めてもすぐ芽吹き、回復しますから、クロホシ病が蔓延していたら、いちいち葉を取り除くのも大変なので刈り込んでください。私の庭は鉢植えのミニバラが200300鉢、ところ狭しとひしめき合っているので、ミニバラからクロホシ病が広がります。ひどくやられた鉢物は丸坊主に刈り込み、庭の隅に隔離して回復を待ちます。

     クロホシ病が病気の代表格なら、ハダニは害虫の代表です。ハダニについては折りに触れ書いています。6月の手入れでもかなり詳しく述べているので、そちらもご覧ください。

     バラの葉の緑が薄くかすれたようになり、葉裏を見るとなんとなく汚れている。ルーペでのぞくと、せわしなく動き回る赤や黄色の小さな虫がいれば、それがハダニです。

     ハダニ専用の殺ダニ剤は、葉の内部に浸透して、それを吸汁してハダニが死ぬのではなく、直接薬剤を浴びて死ぬのです。しかも効果がなくなるのが極めて早く、1日以内のものもあります。ですから予防散布するのではなく、ハダニの発生を見てから散布してください。また、卵→幼虫→第一若虫→第二若虫→成虫のどの段階にも効く薬剤を選んで散布するのがコツです。例えば卵には効果のない薬剤を使うと、卵以外のすべての段階には効いても、卵は健在なのですぐ回復してきます。

     バラに登録適用のある殺ダニ剤ですべての段階に効く薬品は数が少なく、次の2種類です。

  • コロマイト水和剤・ダニカット乳剤

     この2種類を用意して、それでも被害がひどい時はコテツフロアブルやダニトロンフロアブル、テルスター水和剤を補助的に使用すればよいでしょう。

    〈薬剤調合例:水1リットル当たり〉

    A   オルトラン   (水和剤)  1g  1000倍(殺虫)

        ダコニール1000(フロアブル) 1g     1000 (ウドンコ病・クロホシ病)

        展着剤            0.2g   5000

     

    B     アファーム    (乳剤)     0.5g  2000(殺虫)

        フルピカ    (水和剤)   0.5g   2000(ウドンコ病・クロホシ病)

     

    C    アドマイヤー  (フロアブル)0.5g    2000(殺虫)

         サンヨール   (乳剤)    2g    500倍 (ウドンコ病・クロホシ病)

    ○ダコニールは夏の高温時に薬害が出やすいので、7~8月はフルピカの方が安全です。

  • ウドンコ病が発生したら、ABCにルビゲン(水和剤)0.3gか、トリフミン(乳剤)0.5gを追加します。また、クロホシ病が発生したら、サプロール(乳剤)1gかマネージ(乳剤)1gを追加します。ウドンコ病とクロホシ病が同時発生した時は、Aのダコニール、Bのフルピカ、Cのサンヨールを止めて、ルビゲンかトリフミン(ウドンコ病治療薬)、サプロールかマネージ(クロホシ病治療薬)をそれぞれ使用します。

  • ハダニを見つけたら、ダニトロン(フロアブル)・コロマイト(水和剤)・

    ダニカット(乳剤)・コテツ(フロアブル)・テルスター(水和剤)などを散布します。

    ()倍率は説明書を見てください。

    殺ダニ剤はABCそれぞれに追加しても、単独でも結構です。

    これらの殺ダニ剤は、それぞれ殺ダニの作用が異なるので、3~4種類を用意して使用すれば、抵抗性の問題はクリヤーできると思います。

     

    尚、バラまたは花き類・観葉植物に登録適用がない薬剤は使用しないでください。農薬取締法で登録適用以外の薬剤を使用すると罰則があります。現在は食用植物だけに罰則が科せられていますが、法の精神は尊重しましょう。

     

     

    3.鉢替え

     鉢植えの新苗は元気に育っているでしょうか。まだ新苗購入時のビニールポットのままだったり、素焼鉢やプラ鉢でも、そろそろ鉢底から白根が出てくる頃です。白根が出たら鉢替えのサインです。普通大苗の場合は冬の植え込み時に7号とか10号とか定めて植えるので、鉢替えの必要はないのですが、新苗は小さな鉢に植えてあることが多いので、鉢替えが必要になります。5号鉢なら78号鉢、6号鉢なら89号ぐらいの鉢に植え替えましょう。根土(根鉢)を崩さないようにそっと抜き、あらかじめ新しい鉢に少量の培養土を入れておき、その上に置きます。培養土は、赤玉土と腐葉土(堆肥)64ぐらいの割合です。これは一例ですから、あまりかけ離れていなければ、配合は自由です。ホームセンターなどで売られているバラ用の培養土でも結構です。鉢土を乾かしぎみにして植えると、根土が崩れないので、根傷みがなくなります。

     根がびっしり巻いて堅くなっている時は、鉢替えのタイミングが遅れています。あまり遅くなると根詰まりして、水や肥料吸収が困難になり、生長が阻害されます。そんな時はそのまま植えると外側に根が伸びないことがあるので、根を少しほぐし、巻き癖を直して植えてください。植え終わった時、鉢土の表面が鉢の縁から2cmぐらい下がるように植えます。いわゆるウォータースペースを取って、水が鉢外に流れたり、肥料を無駄にしたりしないためのスペースです。根鉢の周囲にも培養土を入れ、潅水して落ち着かせます。培養土に肥料は混ぜないで、1週間ほど経ったら、鉢の大きさに応じて置肥します。

     従来鉢植えのものは、小さな鉢から始めて2回ほど植え替えるのが良いとされていました。そうすることで根が多くなり、限られた鉢土の量を有効に利用できるとされてきました。ところが最近の研究では、小鉢に植えられたものは、鉢替えをしても最初から大きな鉢に植えたものより小さくなる。原因は、植物の根が横に伸び、鉢壁に当ると根が屈曲し、曲がった付近から側根と言われる根が出るとともに老化ホルモンのエチレンが発生し、生長を阻害する。鉢壁に沿って巻く根は、茶褐色化して肥料分もあまり吸収しなくなる、との報告があります。

     また、「キクを0.2リットルの土だけで栽培したときと、その土に0.2リットルのガラス玉を加えて0.4リットルにして栽培したときでは、土の量は同じでも0.4リットルの容積にした方がよく育つ。養水分を過不足なく与えて栽培してもそうである」(花卉園芸大百科 2 土・施肥・水管理 農山漁村文化協会発行)より引用。

     興味ある記事です。バラについての研究ではないのですが、多分同じことだと思います。新苗購入時に大鉢に植えてあるものはないのですが、従来のように細かく鉢替えするのではなく、最終鉢の大きさを決めて、1度だけ鉢替えするのが良いのではないかと思います。(私自身が実際に行っていないので、これからそうしようかな、と考えている段階です)

     

     

    42番花を楽しむ

     現代バラの特長は四季咲き性です。春の1番花を楽しんだ後も、2番花の芽が伸び出し2番花が咲きます。夏花はあまりよくないから、すべて摘み取り、秋花に向けて体力を蓄える育て方の人もいますが、せっかくの特権なので7月の2番花は十分楽しみましょう。バラは花を咲かせながら次世代を担うシュートを発生させます。ところが、このシュートも5年ぐらいまではよく出るのですが、古くなるとだんだん出なくなり古木化してきます。シュート発生の秘訣はないのでしょうか、とよく聞かれます。残念ながら魔法のような妙案はないのですが、次のようなことが考えられます。

  1. 光がよく当る場所に植えること。(日照の良し悪しがシュート発生に影響することは、種々のテストで分かっている)

  2. 枝葉が茂り過ぎると株元への光が不足するので、細枝はこまめに切り取り、株元に光が届くようにする。

  3. 株元に光合成養分が集まることがシュート発生に必要。1番花が終わり次の芽が伸びるまでの数日間は、光合成養分が株元に向けて転流する。2番花の芽が伸び出すと、ほとんど100%新芽を育てるために使われ、転流はしない。その流れを続けるため、1番花が咲いた後、2番花になる芽を全部除去する。

  4. ③より劣るが、2番花は十分咲かせて、放任する。(③より株元への養分転流は少ないが、2番花が咲いて次の芽が伸びるまでは転流する)

     シュート発生の要因には、上記のほか、施肥量・気温・台木や栽培方法なども影響すると考えられますが、これらの要因とシュートの発生に関する発表は見当たりません.潅水方法や土壌などは影響がないことは報告されています。

     バラのシュートを沢山発生させるには、光が良く当たることと、株元に光合成産物が蓄積されることです。それには地上部の成熟した葉が多いことが、必須要件です。クロホシ病やハダニで葉を失っては良いシュートは出なくなります。

     

    文責・成田光雄