月々のお手入れ

8月のお手入れのポイント

  1. シュートを育て古枝整理:剪定前に整理完了

  2. 秋の剪定:深切りを慎む

  3. 薬剤散布:クロホシ病とハダニ退治に最注力

  4. 施肥・潅水:7月に元肥施してあれば追肥は不要

  5. その他:大輪種以外のバラの剪定

     

    1.シュートを育て古枝整理

     7月の手入れでは、バラ栽培上特にシュートを大切にすることには触れませんでしたが、古木化したバラのシュートを発生させる基本条件みたいなことを書いてみました。要するに健康体で古さを感じさせないバラなら結構シュートも毎年出るということなのです。言うは易く行うは難しで、狭い密植の庭ではバラがひしめき合い、生存競争に打ち勝ったバラだけがやっと虫の息で生き延びているのが大多数の愛好家の現実です。広い庭で十分株間をとりゆったり植えられれば、少し手を抜いても無病で育つこと受け合いなのが無念です。

     ボヤいてばかりいても仕方ありません。劣悪な条件でも気を取り直して、春とは違う冴えた色の秋花を期待して、ひと頑張りしましょう。

     7月と同様に今月も新しいシュートの成長具合を見ながら、弱小枝や太くても3年以上の古い枝は切除しますが、あまり急ぎ過ぎないように気をつけてください。葉数を減らし過ぎると、不意に病虫害に遭って残した葉を失い慌てることがあり、そんな時は多少古枝の葉が残っていて助かることもあるものです。すべて新しいシュートのみに更新するほど勢力の強い樹はめったになく、剪定時に1/21/3ほどの古枝が残っている樹形が一般的です。慎重に整理してしかも遅れることなく、91日を中心に前後2週間ほどの剪定適期には、枝先を切り詰めるだけの状態にしておくことがコツでしょう。

     無造作に整理するのではなく、バラの樹を見つめ、ばらとの対話を通じて、不要になって切って欲しいと言ったら手助けしてやる気持ちが大切なのです。新しいシュートが出ても、クロホシ病で葉をふるったり、夜盗虫にかじられたりすれば、古枝もまだ切らないでと訴えるし、シュートが健全に育っていれば、古枝は引退時期だと語りかけてくるものです。

     とにかく急激な変化は嫌うので、なだらかにやさしく整理してください。いつも剪定鋏を手にして、気づいたら少しずつ切ることが大切です。こまめに整理しないと剪定時にジャングル状の樹になり、どこから手をつけてよいのか困惑するし、剪定時にまとめて一度に切ったのでは、ショックが大き過ぎて芽出しがスムーズに行かず、良花も期待薄になってしまいます。

     バラの手入れについては、どうしても四季咲き大輪種(HT)中心になってしまいますが、一季咲きのつるバラやオールド・ローズなども、基本的には同様で、新しい枝を大切にし、古い枝は少しずつ切除します。

     ミニバラやフロリバンダ、イングリッシュ・ローズなどは8月初めまで咲かせて楽しみますが、大輪種は8月は休ませて月末の剪定に備えた方が秋花が大きく咲きます。

     つるバラで上に伸びる種類は、新しい枝を支柱に沿わせてまっすぐ伸ばせと言われていますが、4m5mも伸びるものは大変です。途中から斜めに誘引したり、始めから斜めにしてもそれほど枝分かれしませんから、樹高が低くなるように工夫してください。まっすぐ上に伸ばすのは、枝分かれして細い枝になると大きな花が咲きにくくなるからなので、枝分かれしなければ、どのように誘引してもよいのです。

     つるバラは、花後の新梢が枝先から出易く、太いシュートが根元や根元に近い途中からは出にくいので、思い切って主幹枝を半分ほどに切り詰めると、早くシュートが伸び出し、しかも全体のつるの長さが短くなるので、試してください。かなり大胆に荒っぽく扱った方がよいものです。病気でほとんど落葉しても、丈夫なので切ったところからどんどん芽が吹いて伸び出します。

     一季咲きのオールド・ローズなども、花が咲かないので手入れがおろそかになりがちですが、来年のためにやはり丁寧に扱いましょう。

     

    2.秋の剪定

     バラは冬の剪定だけでなく、どうして秋にも剪定するのですか?と、バラをよく知らない人から聞かれます。普通の街路樹や桜のように放っておいても咲くのではないか?冬に剪定する樹木は多いけれど秋にも剪定することが理解しにくいようです。

     関東以西の四季咲きのバラは、10月下旬が秋花が最もきれいに咲く季節です。10月初旬だと高温で花が小さく、11月中旬以後は低温で花が咲ききれず、夜露や雨で花が傷みます。

     もっとも最近は温暖化や市街化の影響でしょうか、最適期が11月初旬~11月中旬頃にずれ込んでいるように思われます。市街地では霜が降りることもめったになくなりました。

     バラは剪定をせずに放任しても温度さえあれば枝先から新芽が伸び、小さな花がだらだらと咲き続けます。秋の剪定はきれいに咲く頃を狙って、なるべく一斉に揃って咲くように、91日を中心に前後2週間、即ち8月下旬から9月初旬ぐらいに剪定するのです。

     なぜ2週間にもわたって剪定を行うのでしょうか。初心者の方は疑問を抱かれるでしょう。バラはまだ伸び出していない芽の上で切ると、切断による刺激で切った部分の芽や、その下の芽が23芽伸び出し花枝になります。ところが、同じ日に切っても品種によって早く咲くものや遅く咲くものなど、固有の性質があり、花が咲く時期はばらばらです。春の花は冬の剪定後適当な温度になるまで芽が伸びださないので開花調整は困難です。固有の性質に従って早く咲いたり遅く咲いたりします。超早咲きは4月下旬には咲き、超遅咲きのバラは6月に入ってから咲くものまであります。もうお気づきのことと思いますが、秋はなるべく集中的に咲かせるために遅咲き種を早く切り、早咲き種は遅く切って開花期を合わせるようにするのが標準的な秋の剪定法です。

     もちろん早咲きや遅咲きの区別なく一斉に剪定すると、春のように早咲き種から咲き出し、遅咲き種が終わり花となります。これは好みの問題なので、ご自由に剪定されるのがよいでしょう。

     尚、剪定から開花までの所要日数は、91日に剪定した場合、早咲き種45日、並咲き種50日、遅咲き種55日ほどです。

     秋は剪定後の気温低下が早いので、剪定日が遅くなるほど所要開花日数は長くなります。例えば同じ品種を825日に剪定した時と910日に剪定した時では、剪定日のずれの17日の差ではなく、30日以上も遅く咲くことになります。バラは品種固有の積算温度で咲くので、平均気温が高い日が続くと早く咲き、低い日が多いと遅くなります。日の長さには関係ありません。

     秋の剪定は生長期に枝を切り、刺激を与えて芽を出させるので休眠期に剪定する春とは根本的に異なります。地上部の枝葉と地下の根は常にバランスを取り合っているので、あまり詰めて枝を切ると、根と葉のバランスを崩しショックが大きく、樹を弱らせ芽出し後の生長がよくないようです。シュートにハサミを入れるのは、伸びつつある枝の下段、またはもう1段下の中程の芽で、ふっくらとしたピラミッド形の今にも伸び出しそうな充実した芽を選び、芽の上510ミリほどの位置です。芽が伸び出す方向に合わせて斜めに切ります。下段とか1段下などと表現したのは,シュートならピンチと言って蕾が見えた時、指で摘み取ったりハサミで切ったりしてシュートを伸ばすと、摘み取った跡がコブ状になります。それを境にして、段と表現し、1段、2段、3段と言っているのです。シュートだけでなく、春花が咲いた枝や途中から出た太目の枝などでも同様です。切り口を斜めにするのは、切断面に雨水が溜まって切り口が腐敗するのを防ぐためです。また、芽の上510ミリで切るのは、あまり芽に近いと切り口の傷が芽に影響しやすく、10ミリ以上離すと上部の切断箇所まで水が上がらず、枯れ込みの原因になることがあるからです。

     秋の剪定で特に知っておきたいことは、各段の上部の芽は発芽抑制が弱いので、すぐ伸び出し開花が早くなり、下部の芽は発芽抑制が強いので、遅く伸び出し花も遅れます。極端な時は芽が伸びない休眠芽のこともあるので、下部の芽で剪定するのは避けて、各段の中程の良芽を選んで切ることです。

     HTのことをくどくどと書きましたが、基本をしっかり身につければ応用は自在なので、しっかり覚えて欲しいからです。

     フロリバンダやミニバラ、流行のイングリッシュ・ローズやオールド・ローズはもっと気軽に扱ってください。

     理想的な優良株についての剪定は、実際にはあまり参考にならず、全く葉を失ったバラを前にどうすればよいか困惑するのが普通です。それをどうするかを文章で現わすのはとても難しいことです。例えば8月初めにほとんど葉が無くなったとします。そんな時は良さそうな芽の上で軽く枝を切り、発芽を促して様子を見ます。それがシュートなら大抵芽が伸び出します。始めは細い新梢も、やがて自分の力で光合成できるようになると少し元気になります。その枝が病虫害に遭わないよう注意深く薬剤散布し、剪定適期に枝が軟らかかったらピンチしたり、硬ければハサミで切ればなんとか花は咲いてくれます。シュートが無くても春花が咲いた枝やそのつけ根から伸び出した枝などからの芽も花をつけるので、あきらめないで手入れをしてください。各地に地域バラ会があり、それぞれに講習会を行っていますから、お近くのバラ会に問い合わせて実地に学ぶのが一番近道です。悩んでいることが氷解することでしょう。バラ好きの仲間なので、バラ会に入らなくても参加OKのところもあるはずです。(公財)日本ばら会でも受け付けますから、お問い合わせください。難しい本を読むよりも、1年間実際に栽培している庭で学べば基本は身につきます。

     

    3.薬剤散布

     7月中にハダニに冒されると、バラはすっかり弱ってしまい、黄変した葉がはらはらと落葉する様子は哀れです。更にクロホシ病が追い討ちをかけるのが常です。でもあきらめないで、伸び出す新芽を大切にしてください。無農薬に耐えるバラは当分誕生しそうもないので、最小限度の農薬散布は実行しましょう。

     光合成を司る葉を失っては、タンパク質や各種アミノ酸などが作れず、たっぷり与えた肥料も無駄になるばかりか、かえって害があります。肥料などろくに施さなくても、病気や害虫の被害さえ防げば花は咲いてくれるのですから、秋花を脳裏に描いて億劫がらずに定期散薬に精を出してください。

    〈薬剤調合例:水1リットル当たり〉

    (原則として10日おきに散布)

    A オルトラン(水和剤)   1g  1000倍(殺虫)

      フルピカ(水和剤)    0.5g  2000倍(ウドンコ病・クロホシ病)

           展着剤     0.2g 5000

     

    B アドマイヤ(フロアブル) 0.5g  2000倍(殺虫)

      サンヨール(乳剤)    2g  5000倍(ウドンコ病・クロホシ病)

     

    ○ダコニールは夏の高温時に薬害が出易いので78月はフルピカの方が安全です。

    ※殺虫剤のカルホスも高温時の薬害を避けて、ほかの薬剤に切り替えてください。

    ※ウドンコ病が発生したら、ABにバイコラール(水和剤)0.5gかトリフミン(乳剤)0.5gを追加します。また、クロホシ病が発生したら、サプロール(乳剤)1gかマネージ(水和剤)1gを追加します。

    〔ウドンコ病とクロホシ病が同時発生した時は、Aのフルピカ、Bのサンヨールを止めて、サプロールかマネージ(クロホシ病の治療薬)ルビゲンかトリフミン(ウドンコ病の治療薬)をそれぞれ使用します。〕

  • ハダニを見つけたら、ダニトロン(フロアブル)・コロマイト(水和剤)・ダニカット(乳剤)・テルスター(水和剤)などを散布します。

    (注)倍率は説明書を見てください。なるべく同一薬剤は年23回の使用としてください。殺ダニ剤はABそれぞれに追加しても単独でも結構です。

     

    上記の薬剤はすべて登録適用のある薬剤です。バラまたは花き・観葉植物類に登録適用がない薬剤は使用しないでください。

    登録農薬については、パソコンで独立行政法人農林水産消費安全センター(FAMIC)で検索できます。

     

  • アドマイヤ・フロアブルについて

    これまでよく使用されていたオルトランは、有機リン系の殺虫剤で食毒効果と接触毒があり、しかも浸透移行性と言って薬剤が根や茎、葉などから植物体内に浸透し、その植物を食べる昆虫や吸汁する害虫を駆除する浸透移行性薬剤で、とても優れた薬剤です。日本では1973年に登録されました。

    オルトランは昆虫の神経機能を阻害して神経伝達が正常に行われなくすることによって殺虫する薬剤です。

     ところで、アドマイヤ・フロアブルは有機リン系薬剤ではなく、ネオニコチノイド系と言ってタバコの葉に含まれるニコチンの殺虫力に着目し、1980年代からニコチンの化学構造に類似した殺虫剤の開発が進み、従来の殺虫剤とは異なる新しいタイプの殺虫剤で、日本で誕生したものです。以後モスピラン、ベストガード、スタークルなどが登場して来ました。この系が出る前は、殺虫剤は有機リン系、カーバメイト系、合成スピロイド系の3系が主なものでしたが、この系の出現により新しい時代に入りました。

     ネオニコチノイド系は有機リン系とは異なり、昆虫の神経伝達物質であるアセチルコリンの受容体に結合し、神経伝達を遮断する作用機構を持っているので、有機リン系や合成スピロイド系で効きにくくなった害虫にはとても有効です。【参考文献・(公財)日本ばら会発行の‘ばらだより’20051月号(№580)~200510月号(№589)に掲載されたバラの病害虫防除-ミニ講座・千葉馨著】

     

    4.施肥・潅水

     梅雨明け直後に秋の元肥を施してあれば、今月は特に追肥の必要はないでしょう。元肥がゆっくり効いているはずです。もちろん肥持ちの悪い土地では、12回追肥することもあるでしょう。年間を通じての施肥量や与え方の相違は、立地条件や各人の栽培方法によりますが、それが良いかどうかは短期的には秋の花を見て判断することになります。早く自分の施肥コントロールを身につけることが上達の近道でしょう。私の場合は、比較的粘質度の高い土地なので、8月中は与えたことはなく、剪定直後の芽出し肥えも与えません。芽出し後、茎長が15センチほどの間に花芽が出来るので、その間はそっとしておく方がよいだろうとの考えからです。潅水は前月同様高温期なので十分水やりしてください。芽出し時の水分不足によるストレスは、バラに悪影響があります。

     

    5.その他

     ○7月は十分楽しんだフロリバンダも今月は秋の剪定に向けてぼつぼつ整枝しましょう。遅咲きの品種が多いのでやや早目に剪定します。シュートを優先させるのはHTと同じですが、枝数は多くして軽く切り込む程度にします。

     ○鉢植えのバラは、露地植えより早く咲くので、時期を合わせるなら34日遅く切るようにします。

     ○ミニバラは、あまり深く切らないでください。春のように深く切ると極端に花数が少なくなったりします。内側をすかし風通しよくして、枝先をほんの少し切るのがコツです。剪定日は品種による相違がありますが、HTとほぼ同時でよいでしょう。

    ○オールド・ローズやイングリッシュ・ローズの剪定について

    オールド・ローズはそれぞれ性質が異なる品種が多く、剪定の方法も多様です。大まかに言えば、センチフォーリアやダマスク、ガリカの系統は一季咲きが多いので秋剪定は不要です。あまり伸び過ぎているようなら,少し切り詰めておくとよいでしょう。

     繰り返し咲きの品種でも、秋剪定して一斉に咲く品種はほとんどありません。花がらを切り取ることを繰り返してください。

     ただし、チャイナ系の品種は四季咲き性のものが多いので剪定というよりも整枝感覚で軽く刈り込みます。

     イングリッシュ・ローズも一般に言われるほどの四季咲き性があるものは少ないので、四季咲き性の強いものはフロリバンダの剪定のように扱い、四季咲き性の弱い品種は花がらを切り取り、次の枝につなぐ方法がよいでしょう。

     

    文責・成田光雄