1. 剪定:3月に入ったらなるべく早く
2. 芽かき:芽の整理と制限
3. 施肥:元肥を入れてなければ追肥で
4. 病害虫防除:降雨で病気広がる
5. 晩霜対策:天気予報に注意
1.剪定
先月の手入れで、剪定については詳しく述べましたので、先月の手入れをご覧ください。関東以西では2月下旬~3月初旬になりますが、地域により、又その年の寒暖によって剪定時期が異なるので、芽の変化に注目し、伸び出すタイミングを摑んで切ることが大切です。尚、剪定適期を過ぎても、放っておくよりは切った方がよいので、剪定は是非実行して下さい。枝先の芽はかなり伸びているので、貯蔵養分の無駄にはなりますが、遅く切っても春の開花期にそれほど影響ありませんし、そのままにしておくと、貧弱な花ばかりになってしまいます。思い切った枝の更新は、この時期を除いて不可能なので、必ず行うことが肝心です。
2.芽かき
‘暑さ寒さも彼岸まで’のたとえのように、ゆっくり伸びていたバラの芽は、彼岸を過ぎる頃から加速度的に伸長し、葉を展開させ、3月末には長いものは10cm程度に達します。春は‘どこからでも芽吹く’ので、伸び出す芽数は相当多いのですが、全部が花枝に成長することはなく、剪定した上部に近い部分に、集中的に長いステム(新梢、若枝)が出やすく、下部からは所々によいステムが伸び出す、といった具合で、自然の摂理に従い、樹自身の力に応じて花芽をつけるようです。放っておいても花を咲かせる枝は、限度を越えることはないわけです。余分に出た芽は万一に備えた予備の芽なので、必要な枝数だけ成長すれば不要となり、伸びが止まり萎えていきます。この不要芽を早目に整理して、良芽の成長を手助けしてやるのが‘芽かき’になるのですが、その他に自然に咲かせるより大きく立派な花を咲かせるために、枝数を制限する目的で行うこともあります。コンテストに出品するときは、花の大きさも重要ポイントになるので、枝数を制限しますが、普通はブラインド(ステムは伸びるが蕾の無い枝)や出開きの芽(基部の葉が2,3枚展開するだけで茎が伸びない)を処理します。ブラインドは待っていても蕾がつかないので、5枚葉を2枚程つけてピンチするか、遅くなってピンチできないときはハサミで切ります。その先から伸びた枝に花が咲きます。出開きは基部から取り除きます。ステムの先に蕾が見えたら、ステムの根元にある予備芽や成長の遅れた芽を取り去ってやる程度で十分でしょう。その後は、樹自身に任せれば、立派に咲かせてくれます。3月中旬を過ぎると、ところ構わず芽が吹き出します。‘芽かき’は一気に行わず、育ち具合を見ながらぼつぼつ実施しますが、古い枝から出た貧弱な芽や、下部の芽は花が咲かないものが多く、また1箇所から2本以上出た芽や、細く生育の悪い芽は、養分の無駄使いを避ける意味で、早目に‘芽かき’をしておきます。3月末の時点では、予定本数の2~3倍ほどの枝が育った状態になっています。水準以上に伸びているステムはあまり早く取らないで、ステムが10~15cmに伸び蕾が内蔵していることが確認できた時点で、制限してやりましょう。早く芽数を制限しすぎ、その後花芽が腐り、春花が全滅というひどい目に遭うことがあります。早過ぎるよりは遅い方がよいもので、最終芽かきは、関東以西では4月上旬~中旬頃が適期となります。
次に花数を何本位にするかという問題ですが、一般的には細い枝は1本、人差し指大の枝で2本、親指大で3本、といわれています。しかし、これはあくまでも目安であって、個々の状況によって変化するものです。坪当り5~6本の密植と、2~3本をゆったり植えている庭では、1本当りの花数は当然異なるし、樹の老若によっても相当の差が生じます。また、枝立ちの多い樹と少ない樹も同列には論じられません。極端に制限するよりは花数を出来るだけ多くし、その中の良花を期待するのが自然だし、良花の咲く確立もそれだけ高くなります。蕾を持ったステムをすべて残しても、風害や虫害で傷められ、無傷の花は少なくなるもので、実際にそれほど制限することはありません。それでも若木のうちは勢力も旺盛なので、花つきが多過ぎる傾向があり、このようなときは各枝に咲かせる花数を想定し、最終的には予定花数プラス2~3本のステムを残し、制限してやります。やはり、あまり多過ぎると花が小さくなります。
樹も10年を過ぎて老化してくると、制限などしなくても自然に程よい花数になってくるもので、むしろもっと花枝がついてくれないかな、と嘆くことが多くなります。乱暴ないい方をすれば、春は剪定さえしておけば、制限などしなくても大差ない花が咲くものです。決して慌てて‘芽かき’をせず、じっくり見定めて、最少限度の‘芽かき’に止めることが安全だと思います。最終的な‘芽かき’は4月に入ってからなので、次回の手入れでもう少し具体的に述べます。
尚、制限するのはHTのことで、その他のフロリバンダやミニ、つるバラ、イングリッシュ・ローズ等は自由に咲かせてください。
3.施肥
3月に入っても、まだ元肥えを施していない場合は、なるべく早く入れてください。3月も下旬になると開花時にどかっと効いて、花がすっきり咲かないことがあります。したがって3月下旬頃になったら元肥えは止めて、追肥方式に切り替えて、3月下旬、4月下旬の2回に分散して施肥するほうが無難です。
春の芽出し肥えとして化成肥料の追肥を与える人もいますが、冬期の元肥が施してあれば、原則として追肥は不要と考えます。花芽分化の時期にあまり肥料分を与えると、花が乱れることがあるようです。気温の上昇とともに芽が伸び、肥料の吸収も活発になりますが、十分に施した元肥えが徐々に溶けて効いてくるはずです。春は無理な刺激を与えなくても、根元付近に蓄えた養分で自然に芽を伸ばすので、急激に肥料を欲しがるわけではなく、元肥の養分だけで十分のようです。私は30年程追肥は与えたことはなく、しかも追肥を止めてから、春花が格段に良くなりました。IB化成のように比較的効力を持続する肥料でも、効き方は滑らかではなく、花に悪影響を及ぼすように思われます。気温に応じてじわじわ効く肥料はやはり有機質中心で、堆肥を十分用いることに尽きるようです。
ただし、砂地の所や、元肥えが不十分だったり、追肥主義の方は、剪定直後から化成肥料を追肥します。千代田化成のような速効性のものなら、1株当り10g程を、1週間~10日の間隔で与えてください。また、IB化成のように緩効性の肥料なら、20~30gを3月と4月に各1~2回ずつ与えますが、一度に与える量をこれ以上多くすると、根焼けを起こすおそれがあるので、なるべく小まめに少量ずつ、回数を多く与える方が好結果を得られます。
尚、有機質肥料の元肥えも一度にたくさん与えるよりも、毎月ごとに分けて与える方が、なだらかな肥効でバラにも好結果を得られます。面倒でない方は試してください。3月と4月の2回に分けて、300g程を根周りに撒き、フォークやスコップで軽く混ぜ合わせます。
鉢植えのバラは、玉肥えの置肥えを続けます。置肥えの量は鉢土の量に応じて与えます。目分量で与えると、どうしても小さな鉢が多めになり易いので注意しましょう。次におおよその目安を示してみます。
〔鉢植えの置肥え量〕
鉢の大きさ 肥料の量 鉢土の量
(有機肥料) (高度化成肥料) (低度化成肥料)
(例N,P,K各々15%)(例N,P,K各々8%)
3号 1~2g 0.3~0.5g 0.6~1g 0.25ℓ
4号 2~3g 0.5~0.8g 1~1.6g 0.5ℓ
5号 5g 1.3g 2.6g 1ℓ
6号 10g 2.5g 5g 1.75ℓ
7号 15~20g 4~5g 8~10g 3ℓ
8号 20~25g 5~6g 10~12g 4ℓ
9号 30~35g 7.5~9g 15~18g 6ℓ
10号 40~50g 10~13g 20~26g 8ℓ
上記の有機肥料の玉肥えは乾燥重量です。薬品を量るわけではないので、目安でよいのですが、シーズン始めに量をはかっておくことは大切です。特に化成肥料の量を間違えると枯らすこともあります。
玉肥えも中粒なら何粒、大粒で何粒と言いますが、大きさも重さもまちまちです。一度量っておけば、同一メーカーのものなら何個ぐらい与えればよいか分かります。おっくうがらずに実行してみてください。
玉肥えなら月1回、高度化成肥料は肥料成分が多いので玉肥えの1/4の量を月2回ほど与えます。肥料成分の少ない低度化成肥料なら、チッソ成分を基準にして高度化成肥料と比較して減量してください。
バラの根は、有機肥料でも微生物が分解して、N、P、Kなどに無機化した状態で吸収するので、化成肥料と同じです。ただ、化成肥料は有機肥料と比べてどうしても早く効き、均一的におだやかな効き目の有機肥料に劣るようです。ただし、有機肥料は成分量がはっきりしない欠点がありますが、化成肥料は成分が保障されている点が優れています。両者の特長を上手に使い分けるのがよい方法です。
4.病害虫防除
薬剤散布でもっとも注意したいのは、晴天ではなく雨の降りそうな時に行うことです。病原菌は葉の表面が乾燥している時は活動できないのですが、水分があると活動して病原菌を増やします。降雨前2時間あれば散布薬剤は乾燥して、簡単には流れ落ちません。80%は有効とのデータもありますから、このタイミングを捉えて行って下さい。
薬剤散布は、なるべく早朝か夕方が適切です。日中は太陽光線で薬害を起こすことがあります。
尚、薬剤散布は噴霧口を葉裏に向けて噴霧してください。葉の裏側は呼吸口など軟弱組織になっていて、病原菌も入り易くなっていますが、葉の表側は紫外線などに耐えられるように丈夫な組織になっているからです。したがって病原菌も葉の表側からは入りにくくなっています。
昨年クロホシ病にひどく冒された庭は越冬菌がかなり残っているはずです。ひどい時は出芽と同時にクロホシ病が発生する場合があります。こんな時は治療薬のサプロールやマネージなどを最初から使用してください。かけむらを考慮して2~3日毎に3回ほど発生付近に集中的に散布すれば、大体防止できます。クロホシ病に限らず、ハダニなどにしても自家培養していると考えてください。
薬剤散布は、一般的には3月下旬、HTやFの新芽が10~15センチ程に伸びた頃になります。 尚、薬剤散布の圧力は出来る限り高圧で散布することが重要です。(噴霧粒子に重量を与えて植物体に付着させます)葉裏の表面には細かい毛状のものが生えていて、弱い圧力では薬液が葉面まで到着しないので、高圧のものほど有利になります。細かい霧状でふんわり包むのは、よく付着しそうですが葉面には届かないわけです。また、葉面から薬液がしたたるくらい十分散布してください。
〈薬剤調合例:水1リットル当たり〉(原則として10日おきに散布)
オルトラン(水和剤) 1g 1000倍(殺虫)
又はアドマイヤ(フロアブル)0.5g 2000倍(殺虫)
(上記2種類を交互に使用するとよい)
ダコニール(フロアブル) 1g 1000倍(ウドンコ病・クロホシ病)
展着剤 0.2g 5000倍
※病気が出た時(上記に追加又は単独で)
ラリー(乳剤) 0.33g 3000倍(クロホシ病治療)
又はマネージ(水和剤) 1g 1000倍(クロホシ病治療)
ルビゲン(水和剤) 0.33g 3000倍(ウドンコ病治療)
※調合のわずらわしさのない噴射ノズルつきの容器に入った‘エアゾルタイプ’のものや、調合された薬剤入りの‛スプレータイプ‘を使用するのも、栽培本数が少ない方は便利です。ただし、エアゾルタイプは注意書きにあるように、植物体から30センチ以上離して散布してください。あまり近いと気化熱を奪われて、凍傷を起します。商品が沢山ありますから、バラに効く成分があることを確かめることも大切です。
5.晩霜対策
関東以西の暖地では、晩霜はそれほど意識的に対策を講じませんが、それでも被害を受けることがあります。寒い地域では油断できません。剪定後芽が伸びて花芽が形成される頃の、3月下旬~4月上旬にかけての寒波が曲者で、せっかく伸びた若枝がすべてブラインドばかりになった経験もあります。3月の気温が高く順調に伸長した時ほど被害が大きく、被害の順に①葉が縮れたり変形したりする。②ブラインドが異常に多くなる。③ステムの先が腐り、ほとんど蕾がつかない。①はステムがかなり伸びて葉を展開してからの被害で、②は花芽分化時期の芽が1~4cmになる頃の低温の被害です。③は蕾が出来たのに霜で腐る被害です。対策としては、フレームのある場合は寒冷紗やビニール等を全面に被せたり、周囲も囲う事によってかなり効果があるようですが、本数の少ない方は紙袋を被せたり、傘をさしたりしてもよいでしょう。いずれにしても、せっかく伸びたかわいい芽を保護したくなるのは人情でしょう。最近は天気予報もかなり信頼度が高いので、この頃の予報に注意して、できるだけ霜害から守ってやりましょう。ひどい被害を受けても、主芽の成長が止まると、根元にある側芽が伸び出して蕾をつけるので心配はありません。不測の事態に備えた芽の出番です。そのためにも、あまり早く側芽まで芽かきしないことが大切です。
文責 成田光雄